motosuke-takedaの日記

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私

【論文査読】難波先生より

【論文査読】「日本医学史学会」から依頼されていた、17世紀ドイツ・ウィッテンベルグ大学の内科教授、ダニエル・ゼンネルト(1572~1637)の「人と業績」に関する論文の査読をやっと終えた。
 彼の原著論文やパンフレットをすべて集め、徹底的に調べた、まれにみる本格的な論文で、例の「文春」騒ぎに巻き込まれ、依頼されてから1ヶ月も手が付けられなかった。
 ウィッテンベルグは、ルターが宗教改革を起こした記念すべき町で、これとのからみで大学も創立されている。ゼンネルトは基本的には死ぬまでこの田舎町を離れなかった。ペストが町を6回も襲い、最後の流行時に自らもペストに倒れた。


 17世紀はまだ学者はラテン語著作を、庶民はドイツ語著作を読んでいたので書物はラテン語で、パンフレットはドイツ語で書かれている。こういう時代の人物を研究するとなると、ドイツ語、ラテン語、ギリシア語、英語、フランス語の知識が前提として必用になるので、大変だ。
 ゼンネルトは「猩紅熱」の最初の記載者として知られるだけでなく、壊血病、アルコール中毒、赤痢、胆石についての研究・記載を行ったらしい。


 それにしても驚くのは、世界中の図書館・公文書館に、ゼンネルトの生涯を再構成するに足る資料がほとんど残されていて、論文執筆者がそれらを集め、読み込んでいる点だ。
 日本の1637年は、寛永14年で3代将軍家光の時代、島原の乱が起こった年だが、関係資料がどれほど残っているだろうか?


 「論文捏造」や「データ改ざん」が世を騒がせているが、あれは金がからむ臨床医学の話。このように基礎医学では雑誌投稿原稿は、掲載前に2~3名の独立した査読者による厳密な審査がある。これを「ピア・レビュー」というピアは「同僚」という意味だ。「落とすための審査」ではなく、内容をより読みやすく、質的にも向上させるための、「協力」である。内的整合性の欠除や明らかな事実誤認などを指摘する作業だ。「そんなことをして何の役に立つのか?」という意見があるかもしれないが、そもそも学問は知的好奇心の幅と深さをひろげるためにやるもので、「あう歯大金が稼げるかも」とか「奇跡の治療が可能になる」とかで、行うものではない。
 基本的には実用可能性は「派生産物」として出てくる。もっともゼンネルト研究が実用可能性をもつとは考えられないが…


 大部分の基礎医学者は、論文捏造とか金目当ての研究とは無縁な世界に生きていることを、知って欲しいと思う。いつまで経っても「貧乏学者」の世界である。