motosuke-takedaの日記

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私

第3 切除の際のドナー体内のガン転移

第3 切除の際のドナー体内のガン転移
1 腎血管(動・静)の結紮・切離の順序について
 被告らの主張
被告らは、答弁書P5(第2の2(2)①))において、以下のとおり主張する。
ア 移植を前提とした術式と癌治療を前提とした術式は、その手術内容・順序が全く異なる。
イ 癌治療を目的とした腎臓摘出の方法であれば、手術操作による癌細胞の血管性転移を防ぐため、摘出に際し早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離す。これにより、出血量を最小限に止めることが可能であるだけではなく、特に、腎癌・尿管癌の場合には、癌細胞が血行性に転移することを防止するために、先ず、血流を遮断して臓器(腎臓)を摘出する。
ウ 移植目的の手術(移植用腎採取術)においては、臓器の虚血を防いで臓器機能を維持し、移植を成功させる確率を上げる観点から臓器摘出の最終段階に至るまで血流を維持する必要がある。
エ 今回問題とされた病腎移植においては、腎癌・尿管癌の治療であるにもかかわらず、最終段階で腎血管(動・静脈)が結紮・切離されるという移植目的の手術の手順をとっており、血行性に癌細胞の播種の危険を増大させ、癌などの悪性腫瘍の手術の術式として容認できない内容のものとなっている。
 反論
ア 下部尿管癌に関しては、尿管への血流を支配している血管は腎血管(腎動・静脈)だけではない。特に、尿管の中部から下部は、主に腹部大動脈や腸骨動脈など、腎臓以外の血管から血液供給を受けているため、腎臓への血流のみを止めることは重要な意味を持たない(甲C16)。
よって、腎血管(動・静脈)の結紮・切離をいつの段階でするのかは問題とならない。
    そもそも、被告ら主張の根拠となるような資料、文献はない。
イ 小径腎癌に関しては、最近は、小径腎癌の治療方法として、腎臓の全部摘出よりも部分切除の方が推奨されるようになってきたが、小径腎癌の部分切除の場合、癌病巣切除時の出血を止めるために、止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)が必要となり、これにより腎臓に「温阻血時間」(※)が生じる。よって、小径腎癌の部分切除では、腎臓の「温阻血時間」をできるだけ短くするため、止血鉗子による腎血管(動・静脈)の一時的止血(結紮・阻血)を癌部分の切除をする直前に行う(腎血管【動・静脈】の血流を可能な限り維持する。)。
 このことは、腎血管(動・静脈)の結紮の順序は問題とならないということを示すし、小径腎癌の治療方法として部分切除が相当であると主張しながら、早い段階で腎血管(動・静脈)を結紮・切離しなければならないと主張するのは、矛盾主張である。
 小径腎癌の全摘と部分切除では、血管の処理の時期が異なっても遠くへ腎細胞癌が転移する確率は同じであり、血管処理の時期の相違で転移する確率が異なると述べる文献はない。
 ※ 臓器の血流が止まってから臓器を移植して血流が再開するまでの時間を阻血時間というが、とくに体温の状態で阻血がおこると、細胞の代謝が行われているにもかかわらず、酸素や栄養が補給されないため細胞が死滅するので、この時間を〈温阻血時間〉と呼び、心臓や肝臓では0分、腎臓や肺では30分とし、早く臓器を冷やして細胞の代謝を抑えるようにしなければならない。心臓が動いている脳死の状態で摘出すれば、障害のないまま取り出すことができ、温阻血時間も短くできる。

2 尿管癌の場合の尿管の切断
 被告らの主張
被告らは、被告ら準備書面(11)P6~7(第6の1項)において、以下の通り主張する。
   「尿管癌は、多中心性(1つの臓器に複数の癌病巣が発生する現象のこと)に発育することが多く、肉眼的に一見正常に見えても、顕微鏡で見ると、尿管癌の微小癌巣が存在することがあり、そのため尿管癌の手術においては、(尿管を切断せずに)腎・尿管・膀胱壁の一部を一塊として摘出することが原則とされているのに、瀬戸内グループが行った尿管癌の術式は、尿管を途中で切断するという手術手順を取っており、尿管癌が腎提供者となったドナーの体内に散布された可能性は否定できない。」
また被告らは、ヨーロッパ泌尿器科学ガイドライン(乙44)においても「尿管を切断することは腫瘍を播種させる可能性があるため、行ってはならない」と記載されている、とも主張している。
 反論
  ア 前提(問題整理)
い まず、尿管癌の手術は、摘出された腎臓を移植に用いるかどうかに関係なく、腎臓、および尿管の全部摘出である。このことについては、原告ら、被告ら間に争いはない。
なお、摘出された腎臓、および尿管は、その後、廃棄されるのが通常であるのに対し、尿管癌の場合の修復腎移植(なお、修復腎移植に適応する尿管癌は、尿管の下部【膀胱に近い部分】に癌が発生した「下部尿管癌」のみで、尿管の上部【腎孟を含む腎臓に近い部分】や尿管の中部に癌が発生した上部尿管癌、中部尿管癌では修復腎移植は行わない。)では、癌が存する部分の尿管を切除して摘出された腎臓をレシピエントに移植する(当然、尿管は短くなる。)。
ろ 腎臓、および尿管を全部摘出する方法として、①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法、②肉眼的に正常と思われる部分の尿管を途中で切断した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法とがあることに関し、被告らは、「②尿管を途中で切断した後に、腎臓、尿管および膀胱壁を摘出する方法は、許されない。」、「①腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出されなければならない。」と主張しているのである。
イ 反論
 い 「尿管を途中で切断する」というのは、癌がある尿管部分を切断するのではない。「肉眼的に正常な部分の尿管を切断する。」ということである(なので、癌の播種はそもそも問題とならない。)。
ろ  ①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく、②肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法も、標準治療として認められている。
は 世界的権威を有する医学書であるキャンベル・ウオルシュ「ウロロジー」(甲C17、C53)でも、「(尿管の)管腔からの腫瘍の漏出を防止するために尿管と腎臓の連続性を保持することも考えられる。しかし罹患した腎臓は処置が困難であり(腎臓に脂肪が付き過ぎたりして手術操作に支障をきたす場合等のこと)、遠位尿管(「下部尿管」のこと)で肉眼による異常が認められない部位において結紮またはクリップ間で切断される限りにおいてはこの処置(尿管を切断することなく尿管と腎臓の連続性を保持すること)は不要である。」と記載されている。
すなわち、①尿管を途中で切断することなく、腎臓、尿管および膀胱壁の一部を一体として摘出する方法だけではなく、②肉眼的に正常な部分の尿管を途中で切除した後に、腎臓、尿管、および膀胱壁を摘出する方法も、標準治療として認められている。
に 乙44には、一見被告らの主張に沿うかのごとき記載がある。しかしながら、この記載に続く部分「4.2保存的治療」の部分では、「過去何十年に渡り、限られた適応での保存的治療は、根治術の生存率に引けを取らないことが示されている。」、「多くの泌尿器科医が尿管癌がUS(下部尿管癌)に存在する場合、例え浸潤癌であっても、腎温存手術を施行している。」と記載されている。この部分は尿管癌の場合の腎臓の保存的治療について記述したものであり、「保存的治療は否定されない」旨を述べているものである。
ところで、尿管癌の場合の腎臓の保存的治療を行うに当たっては、尿管にできた癌を切除する必要があるので、必ず、尿管を途中で切断することになる。したがって、乙44は、尿管部分を途中で切って摘出するという手術法を価値あるものとして認めているものであるから、被告らが乙44を根拠として上記術式が「絶対やってはいけない手術法」である主張するのは完全な誤り、もしくは悪質な誤導である。
      また、乙44は、2004年(平成16年)のヨーロッパ泌尿器科学会ガイドラインであるが、その2012年(平成24年)版(甲C71‐1、2)(「3.7.11 根治的腎尿管摘除術」項)は、「上部尿管にある腫瘍の位置に関係なく、膀胱カフを切除する根治的腎尿管摘除術がUUT-UCCのゴールドスタンダード治療である(LE:3)(8)。RNU手技は、腫瘍切除中に尿管への進入を回避することによって腫瘍の播種を予防するという播種学的原則に従っていなければならない(8.69)」と述べている。このことからも、乙44を「尿管の切断は腫瘍を播種させる可能性があるため、行ってはならない」としているとする被告の主張は誤りである。
※ 「腎臓の保存的治療」とは、尿管癌が発生した方の腎臓を全部摘出するのではなく、腎臓を残す治療のことを言う。主に、尿管癌が発生した方の腎臓とは別のもう一つの腎臓が機能していないなど、どうしても尿管癌が発生した方の腎臓を残さなければならない場合に行われる。
ほ 吉田証言
     吉田証人は、以下のとおり証言した。
   (1) 血管処理の時期の相違(最初にくくるのか、最後にくくるのか)で、ガンが転移する確率は異なると記載されている文献は知らない(吉田証人調書183項)。
(2) 最近は腎ガンの部分切除の割合が高まっているが、部分切除の手術方法は大きく分けて2つある。腎動静脈に非常に大きな血管に近いところを部分切除するときは、そこを取るという瞬間に駆血して、取った後に解放する。部分切除の非常に小さい4センチ以下、あるいは2センチぐらいの腎ガンに関しては、駆血しない(血流を止めずに、そのまま癌部分を切除する。)(吉田証人調書192~193項)
     従って、①血管処理の時期の相違によりガン転移の危険が高まるという被告らの主張には文献上の根拠がないことが明らかであるし、②小規模な小径腎ガンの部分切除が「血流によるガン細胞の転移」の危険は無視できるものとして行われている以上、被告らの主張が為にするものであることは明白である。